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こすぎ法律事務所

弁護士 石坂 想


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ここではブログをご紹介します。参考にしてみてください。

遺産分割調停でよく出てくる問題として「使途不明金」の問題があります。

簡単に言うと,相続人の1人(一部)が,無断で,被相続人の名義の預貯金口座からお金を引き出してしまったという場合ですね。

結論としては「(当事者が合意しない限り)遺産分割調停では解決できない。訴訟で解決するしかない。」ということとなります。

この使途不明金問題,家庭裁判所からすると大きな悩みとなっているようです。

家裁サイドの本音としては「知るかそんなもん!家裁に持ち込むんじゃねぇ!」というところなのでしょうが,当事者としては「あいつは親の通帳を管理して自由に使っていた。許せない。」ということで非常に重要視するポイントになり,調停が進まない原因になります。

場合分けとしてはいろいろあり得るのですが,ここでは被相続人の死亡前後で分けて考えてみます。

① 被相続人の死亡前に無断でお金が引き出された場合

この場合,引き出した相続人には被相続人との関係で不当利得が成立するということになり,不当利得返還請求権が各相続人に相続された…と考えることになります。

ただ,そもそも相続人が利得したという根拠となるような状況(例えば「既に認知症を患っておりお金を使うことができない」「長きにわたり入院していて寝たきりだったからお金を使う場所なんかなかった」など)がないと,相手方が否定してしまえば終わりです。

訴訟を提起したとしても不当利得とは認められないでしょう。調停も訴訟も「被相続人のお金の使い方に文句をつける場所」ではありません。

なお,ここでは,被相続人に無断で引き出されたことを前提としています。

被相続人の了解を得て引き出していたという場合は不当利得にはなりません。

他の相続人としては,金額や使途等を調査した上で,特別受益に該当すると主張することとなるでしょう。

 

② 被相続人の死亡後に無断でお金が引き出された場合

預貯金については特殊なものを除き,相続開始と同時に各相続人が法定相続分によって分割して相続したということになります。

そうすると,死亡後の引き出しについては,他の相続人との関係でダイレクトに不当利得になり,他の相続人は,引き出した相続人に返還請求することができます。

なお,死亡後の引き出しについては,被相続人の了解を得たということはあり得ませんので,特別受益の話は出てきません。

ちなみに,使途不明金の返還を訴訟で請求する場合,根拠としては不当利得か不法行為が考えられます。実際には,(事情によりますが)どちらも選択的に主張するということが多いように感じます。

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遺産分割の場面で、『特別受益証明書』『相続分不存在証明書』という書類が作成されることがあります。私の印象だと,司法書士の先生がよく使用されている感じですね(ただ,今は司法書士の先生も遺産分割協議書を作成するようにするのが主流のようですが。)

「こんな書類が兄から送られてきたのですが何なんでしょうか?」というような相談もしばしばあります。

 

これは,民法の条文だと903条(特に2項)に関係するもので,「自分は生前に被相続人から自分の相続分を超える利益を得ているので,相続分はゼロでいいです」という意思を表示するものです。

不動産を取得しない相続人からこの証明書をもらえれば,証明書に基づいて被相続人から不動産を取得する相続人への不動産所有権移転登記が行われます(通達で,相続分なきことの証明書を登記原因証書とすることが認められています。)。これがあれば,遺産分割協議書がなくても不動産の移転登記ができるわけですね。

 

『特別受益証明書』という名称からも分かるとおり,本来であれば特別受益を受けていることを前提として作成される書類のはずですが,実際はそうではないことも多いのです。

「お金は後で渡すから…悪いようにはしないから…とりあえずこれにサインしてよ(^_^)v」というような形で,ついついサインしてしまうというケースも見受けられます。

ただ,この特別受益証明書は,上でも書いたように自分の相続分はゼロでよいという意思表示なわけですから,その効果は重いものです。財産を相続しない相続人全員がこれを交付したということであれば,(遺産分割協議書がなくとも)遺産分割協議が成立したものと評価されるでしょう。

くれぐれも慎重に対応してほしいと思います。

ちなみに,1人または一部の相続人からこの証明書の提出がなかったという場合は,遺産分割の処理ができません。そこで,相続を希望する相続人は,遺産分割調停を申し立てることになります。

この場合,遺産分割協議は成立していないので,証明書を提出した相続人についても調停の当事者となり,改めて遺産取得に関する意向をのべる(裁判所から確認される)ことになります。特別受益証明書を事前に提出していたからといって直ちに相続分を放棄したとかそういう扱いにはなりません 

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相続税の基礎控除額の変更等の影響でしょうか,相続関係のご相談が増えています。

既に相続が発生している件だけでなく,遺言を作成したいという方も増えているようですね。特に財産のなさそうな人も,書店で遺言作成キットを購入して,遺言書を作成している時代です。確かに,「FACEBOOKの処理はどうするんだ。」とか,細かいことまで考え始めると,悩みの種は尽きません。

 

冗談はともかく,遺言書があるかないかによって,その後の相続手続が全く変わってきてしまいますので,相続に際して,遺言の重要性は強調してもしすぎることはありません。

ただ,せっかく書いた遺言書が見つからなかったら,どうなるのだろう…と疑問に思われたことはないでしょうか。

そこで今回は,遺言書の発見方法について書いてみたいと思います。

 

1.遺言の保管方法

 

実は,遺言書の保管方法については,特に民法上の規定がありません。

いくら遺言を書いていたとしても,発見されなければ,法定相続をせざるを得ないので,遺言書の発見というのは結構重要なのです。そうであるにもかかわらず,遺言書って基本的には発見しにくいことが多いのです。

遺言書を作成する人は,自分の意向に基づき,法定相続とは違った内容にしていることが多いはずです。そうなると,必ずしも相続人全員が納得できる内容ではないことが多く,身近な家族に知られると困る…ということで,遺言書作成の有無や保管場所について家族に明らかにしていないということも結構あるのです。臨終の際に遺言の存在をきちんと伝えることができればいいですが,そうそううまくいくものでもありません。

という訳で,相続が発生した場合,相続関係者としては,「いつ探すのか?」「今でしょ!」とばかりに遺言書を探すことが必要となります。

 

2.遺言の探し方

 

遺言には,大きく分けて,自筆証書遺言,秘密証書遺言,公正証書がありますが,公正証書遺言の場合,遺言書原本は公証人役場で保管されています。そのため,公証人役場で作成された公正証書遺言については「遺言検索システム」を利用して全国の公証役場について,遺言書の有無を一括検索することができます(ただし平成以降に作成された遺言書に限られているようです。)。公証人役場で作成された秘密証書遺言についても,記録は残りますので,遺言の有無については確認できます。

というわけで,公正証書遺言は,発見しやすいという点でも優れています。公正証書遺言の場合,証人もいますし,遺言執行者が定められることも多いので,遺言書が発見できなかった…ということはほぼないと思われます。

 

自筆証書遺言については,とにかく足を使って調べるしかありません。

親族等への聴き取り調査はもちろんのこと,遺言者が生前関係していた病院や介護の関係者,親しい友人等にも問い合わせるべきです。介護関係者は遺言者と一緒にいる時間も長く,意外と深い話をしていることもあるので,面倒がらずに尋ねてみましょう。

また,遺言者が生前依頼していた法律専門家(税理士,弁護士,行政書士など)が分かった場合には,照会してみるべきです。

後は,自宅等を徹底的に探すことも重要です。金庫とかは誰でも探しますが,本の間に隠すというタイプも少なからずおられます(写真や書類を本に挟むというのは,私もついついやってしまいます。)。

 

3.旅の終わり

もっとも,探しても出てこないのに遺言書を探し続けることは,それこそ‘終わりなき旅’になってしまいます。どこかで終わりにしなければ相続手続を進められませんので諦めることも必要です。

 

遺言は,遺言者の最終意思を実現できるツールであり,正しく活用されれば相続の際の紛争予防にもなります。

民事信託等を利用すれば,かなり複雑なオーダーでも実現可能です。

元気なうちに一度自分のやりたいことを再確認してみて,遺言作成を検討するというのもいいかもしれません。

遺言作成は,弁護士としても創造性が要求されますし,ご依頼者の方と一緒に作り上げていく喜びがありますので,やっていて非常に楽しいですね。

 

なお,遺言書が発見されたとしても,本当にそれが有効かどうかはまた別の問題であり,遺言の有効性が激しく争われることもあります。私も遺言の有効性を争う事件に関わることが多くなりました。これについては色々ネタがあるので,また別の機会に書きたいと思います。

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【相続放棄】お金を貸した相手方が死亡し,相続放棄がされた場合の処理

お金を貸した相手方が死亡し,相続放棄がされた場合の処理について、今日は書こうと思います。

相続人は,通常,債権者からの請求に対し,「相続放棄申述受理証明書」や「相続放棄申述受理通知書」を提示して,支払う義務はありません,と言って支払いを拒むこととなります。

相続放棄が有効なものであり,最終的にどの相続人も相続放棄をしてしまった場合には,相続人に対し,支払いを求めることはできません。
被相続人に何らかの財産がある場合には,債権者としては,相続財産管理人選任の申立を行うことになります。

もっとも,相続放棄の申述が受理されたからといって,その相続放棄が有効と決まったわけではありません。
相続放棄の申述受理については,訴訟上その効力を争うことができます。
相続放棄の申述が受理されたものの,その後裁判(訴訟)になり,
その結果,相続放棄の効力が認められず,貸金等の返還が認められるというような事案もあります(例えば,大阪高裁平成21年1月23日・判例タ1309号251頁など)。

まとめると,
・債権者としては,相続放棄申述受理証明書等が提出されたとしても鵜呑みにせず,事実経緯をよく調査すること。相続財産管理人の申立を検討すること。
・相続人としては,相続放棄の有効性に疑問を抱かれないよう,きちんと手続をおこなうこと。
が重要です。

相続放棄の手続はそれほど難しくありませんが,重大な効果を持つこと,事案によっては後日争われることがあること,などから,不安な場合は弁護士等の専門家に依頼した方がいいかもしれません。戸籍謄本類の収集だけでも大変ですので。

【遺産分割】あなたの知らない限定承認の世界

ある人が亡くなった場合,相続人がいれば,相続が開始されます。

相続が開始しますと,相続人は,亡くなった方(被相続人といいます)に属した一切の権利・義務を引き継ぎます。

しかし,この義務には,借金といったマイナスの財産(債務)も含まれます。被相続人が亡くなった場合に相続人は必ず相続をしなければならないとすると,借金ばかり残されていたような場合には,相続人はたまったものではありません。

そこで,民法は,相続人に,いったん発生した相続の効果を承認するか放棄するかの自由を認めることにしています。

 

相続の方法は,次の3種類です。

単純承認

プラスの財産とマイナスの債務の両方を,文字通り単純に相続することです。

相続放棄

財産も債務も,相続しないことです。

限定承認

相続はするが,プラスの財産の範囲内でのみ債務を返済する責任を負うことです。

分かりやすくいいますと,

遺産債務の場合→遺産-債務で,残った財産相続する

遺産債務の場合→遺産-債務で,残った債務免除を受ける

ということになります。

 

今回はマイナーな③限定承認にスポットを当ててみたいと思います。

 

限定承認をしたほうがいい場合は?

まず,どのような場合に限定承認を検討すべきかというと,相続財産の合計がマイナスである可能性がある程度高いことに加え,以下のような事情がある場合は,限定承認を検討するメリットがあると言われています。

・相続放棄して次の順位の相続人に迷惑をかけることを避けたい場合

例えば,夫が亡くなって,妻と子どもが相続放棄をすると,次は夫の両親,そして次は夫の兄弟…と相続人が変わっていくことになります。こうなると,相続人となり得る人みんなが相続放棄の手続をとらないといけませんので,親戚一同から白い目で見られることにもなりかねません。限定承認をすれば,次の順位の相続人にとばっちりがいくことはありません。

・被相続人の財産のうち一部だけを承継したい場合

限定承認をした場合,財産は,基本的に競売によって換価することとされています。

ただ「先買権」という特別な制度があり,相続人は,正当な対価を支払えば,競売を止めて財産を買い取ることができます。つまり,借金を全て支払う余裕はないが,遺産の中にどうしても欲しい不動産(自宅の持分とか)があって,その対価分くらいなら何とかなりそう…という場合には,その財産だけを確実に手に入れることができるのです。これは,限定承認にしかない制度です。

 

限定承認するかしないかはいつまでに決めればいいのか?

限定承認または相続放棄をするためには,「自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内」という制約があります(熟慮期間といいます)。この間に相続放棄か限定承認をしないと,単純承認したことになります。

熟慮期間は,家庭裁判所への申立てによって伸長することが可能です。3か月は長いようで短いですし,次から次へと債務が発見されることもあります。どうしようか迷ったら熟慮期間の延長を申し立てるほうがよいでしょう。そういうお店と違って延長料金も取られませんし。

また,遺産を売却したりすると単純承認したとみなされて,限定承認も相続放棄もできなくなってしまいます。これは考えてみれば当然のことで,遺産の一部を売却してカネにしておきながら「借金?んじゃ放棄します!」というのは無理ですよね。相続の態様が決まるまで,遺産には手をつけないようにしましょう。

 

限定承認という手続は,パッとみると非常に分かりやすく,安心感のある制度なのですが,実際には,手続の煩雑さや税務上の問題から,あまり利用件数は多くありません。私は申立ても,その後の処理(相続財産管理人の代理業務)も経験がありますが,手掛けたことがない弁護士も珍しくないと思います。

ただ,上手く使えば価値のある制度ですので,法律面と税務面を考慮しつつ,メリットデメリットを検討できるとよいですね。

【寄与分】寄与分と遺留分の関係〜寄与分を定める際に、他の相続人の遺留分について考慮されるか?

寄与分を認めるか,また認めるとしてもどのような評価をするかについて,民法では「寄与の時期,方法及び程度,相続財産の額その他一切の事情を考慮して定める」と規定されているだけです。
つまり,裁判所の裁量にほぼ委ねられています。
そうすると,多大な寄与分を認めること,極端に言えば,遺産の9割が寄与分である,というような認定も可能であるということになります。
ただ,そのように寄与分を大きく評価した場合には,他の相続人の相続分が少なくなり,遺留分侵害の結果を生じるということもあり得ますよね。
このような寄与分の認定は許されるのでしょうか。

この点に関しては,東京高裁の決定があります(東京高決平成3年12月24日判タ794号215頁)。寄与分と遺留分の関係について初めて言及した裁判例と捉えられています。
本決定の原審判では,長男が,被相続人の農業を手伝い,また療養看護につとめていたとして遺産総額の7割もの寄与分が認められました。そのため,他の相続人の相続分が遺留分相当額より低く算定されてしまったので,他の相続人が即時抗告をしたものです。
同決定は,まず「寄与分の制度は,相続人間の衡平を図るために設けられた制度であるから,遺留分によって当然に制限されるものではない。」としましたが,民法が遺留分の制度と寄与分の制度をそれぞれ規定していることから,「裁判所が寄与分を定めるにあたっては,他の相続人の遺留分についても考慮すべきは当然である。」としました。
形式的には寄与分を優先しつつ,実際には「一切の事情」として遺留分についても十分考慮しなければならないという解釈を示したものと考えられます。

寄与分を主張する相続人に,他の相続人の遺留分侵害の結果をもたらしてもやむを得ないな…と評価できるほどの多大な寄与が認められれば,遺留分を侵害するような寄与分が認定されると思われますが,極めて例外的な場合に限られるでしょう。

【寄与分】相続人が被相続人の不動産取得のために資金を支出していた場合

寄与分が認められるための寄与行為についてはいくつかの類型に分けて整理されています。
その中のひとつに「金銭等出資型」という類型があり,典型例は「共稼ぎの夫婦の一方である夫が夫名義で不動産を取得するに際し,妻が自己の得た収入を提供する場合」,「相続人が被相続人に対し自己所有の不動産を贈与する場合」等が挙げられます。

金銭等出資型の場合,身分関係に基づく通常の協力扶助義務の範囲を超えるものであることが多いため,特別の寄与と認められることが多いと思われます。

では,妻が不動産取得のために自己固有の資金を支出した場合,寄与分の金額はどのように算定すべきでしょうか。

この場合,出資した金額をそのまま寄与分として算定する,という計算方法だと,不動産の価値の変動や貨幣価値の変動を考慮することができないので,相当ではありません。
そこで,一般的には,割合的に考えて,
寄与分額=相続開始時の不動産価額×(妻の出資額÷取得当時の不動産価額)
として計算することになるでしょう
(和歌山家審昭和59年1月25日家裁月報37巻1号134頁参照)。

上記審判例は,不動産取得時に妻が自己資金を提供したという事案であり,事実関係もやや特殊です。
被相続人である夫と妻はいずれも元中学校教諭でしたが,結婚後まもなく夫が病気退職したので,妻は会社員として就職し直して働き続け,その収入によって住宅購入資金を準備しました。
そして,夫と相談の上,土地建物を代金1385万円で購入し,夫の名義としましたが,その代金のうち1255万円(90.6%相当)は妻が提供したものでした。
このような経緯を踏まえ,審判では妻の寄与分が認められました。

住宅ローンを妻の給与から支払った等といった場合は,また異なる視点での判断も必要かと思われます。

【寄与分】親父は生まれたときから農家だぞ!〜親の寄与行為を寄与分として主張できるか〜

 

被相続人の長男夫婦の長男(被相続人の孫)である代襲相続人について,代襲相続人の両親である被相続人の長男夫婦とともに被相続人の家業である農業を維持してきたとして,5割の寄与分を定めた事例

(横浜家審平成6年7月27日家裁月報47巻8号72頁)

 

寄与分については、「共同相続人中に」(民法904条の2)とあるので,相続人が寄与分の権利者であるということになります。

相続人が自分自身の寄与行為を主張する場合には問題はありませんが,代襲相続の場合において,代襲相続人が被代襲者による寄与に基づいて寄与分を主張できるかという問題があります。

(ちなみに代襲相続した相続人がここでいう「共同相続人」に含まれるかという論点もあるようですが,これが認められることには異論がないと思われます)

 

上記事件では,被相続人が祖父(A),被代襲者(既に亡くなっている)が長男(B),代襲相続人が長男の息子(C),という関係でした。

この場合に,Aの遺産相続に際して、Cが「自分も勿論だが,B夫婦もAの家業を手伝ってきた。B夫婦とCの貢献をあわせて,Cの寄与分を定めるべきだ」と主張しました。

上記審判は,「代襲相続において代襲相続人は被代襲者による寄与に基づき寄与分を主張できる」と解しました。また,被代襲者の配偶者(ここではBの妻)の寄与行為についても認められるのかという問題についても,被代襲者Bの寄与分に含まれるとして配慮しています。

 

寄与行為については,相続人の配偶者等が中心となって行っていることは珍しくありません。家庭裁判所も,実情に鑑み,相続人の配偶者等については「相続人の履行補助者として寄与した」等として柔軟に考えることが多いと思われます。

【遺産分割】養子縁組と特別受益〜二重取りかよ!?

遺産分割において良く出てくる問題として,相続人に対する特別受益という問題があります。

遺産分割において法定相続分を修正する要素としては結局のところこの「特別受益」と「寄与分」という点しかないので,遺産分割において特別受益が問題となることは非常に多いです。

 

さて,この特別受益,相続人に対するものであれば時期を問わず持ち戻しの対象となります。

では,特別受益を受けた当時は相続人ではなかったけれども,その後,養子縁組によって相続人の立場を得るにいたった,という場合は,どう考えていけばよいのでしょうか。

この点が問題となった審判例が神戸家裁平成11年4月30日審判です。

事案としては,被相続人が不動産を生前に第三者(被相続人の後妻の実子,従って相続人の立場にない)に贈与していたのですが,その後,当該第三者と養子縁組をしたため,当該第三者が法律上も相続人になったというものです。

要するに,養子縁組によって推定相続人になる前に被相続人からなされた土地の贈与が特別受益になるかという点が争点となりました。

この点については,これを肯定する見解と,原則否定するが養子縁組と贈与の間に関連性がある場合には例外的に肯定するという見解があります。

前記審判は,「民法903条が共同相続人間の遺産分割に関する公平の理念に立脚しているものであること」「本件事案の経緯に照らして」として,当初から推定相続人たる地位を取得していた場合に準じて扱うのが相当である,としました。

本件事案の経緯に照らし,という部分からは,全面的な肯定説ではないように感じられますが,原則否定するというわけでもないようですね。

実務的には,どちらかというと原則的には肯定で,養子縁組と贈与の関連性も積極的に認めていく,というスタンスのように思われます。

 

特別受益に関しては,本当にさまざまな問題があるので,遺産分割において弁護士としても苦労するポイントです。やや一般的な感覚からは離れた結論となる可能性もあるところですので,きちんとした主張立証が必要な分野だと思います。

【遺産相続】死せる孔明、生ける仲達の所有権に口出しする〜後継遺贈の有効性〜

後継遺贈(あとつぎいぞう)とは,例えば「不動産1をAに与える。Aの死後は不動産1をBに与える。」という内容を遺言によって定めることをいいます。

一見,簡単なようですが,このような遺言は,有効に成立するのでしょうか。

 

遺贈も法律行為であり,条件を付けることができますし,始期や終期を定めることもできます。

ただ,後継遺贈では,遺言の前段によって「A」が不動産の所有者になっているのにもかかわらず,遺言者が「…Aの死後はBに与える。」ということになっています。つまり,遺言者が他人の不動産について処分していることとなります。Aにとってみれば,不動産は,自分の死後には自分の意思にかかわらずBのものになってしまうのですから,言ってみればタイムリミットのある所有権しかもっていない,ということになります。ザ・リミテッド・所有権です(今できた造語です)。
このような限定的な所有権は民法の認めるものではありません。

こういった理由から,後継遺贈については,少なくとも全面的に有効であるとは解釈できない,という考え方が多数派です。

 

もっとも,後継遺贈の有効性については法律家の間でも確立した解釈がないところですので,普通の人が作成する実際の遺言に「これは後継遺贈であーる。私は後継遺贈については全面的に有効であると考えておるのじゃ!」などと書いてあることはまずあり得ません。そこで,理屈をこねくりまわす前に,まず「その遺言をどう解釈すべきなのか」ということが重要になります。

 

最高裁昭和58年3月18日判決はこのような遺言解釈の重要性を示す事件です。

問題となった遺言には,要約すると「所有不動産は,Yに遺贈する。Yの死亡後は,A,B,C…の各人に一定の割合で権利を分割所有させる。」といった内容が含まれていました。

原審(高等裁判所)は,このような後継ぎ遺贈は,有効とする法律上の規定がなく,第一次受遺者(Y)の受ける利益の内容が不明確で,関係者間に複雑な紛争を生じさせる恐れがあるとして,後継ぎ遺贈全体の効力を否定しました。

しかしながら,本当に遺言者の意思は後継遺贈をするところにあったのでしょうか。
例えば,
①Yに対し,「あなたが死んだら,その時は必ずA,B,C…の各人に権利を承継させるように。それを守ってくれる代わりに,私はYにあげる。」という意味であるとか,
②Yに対し,死ぬまでの間住むところだけは確保してやる。その代わり,売らないであなたが亡くなったら私の後継者たちに返してくれ。」というような意味であるということもあり得ます。

このような遺贈は,負担付遺贈,期限付遺贈などと言われ,現在の法律実務上有効に利用されています。

そうであれば,後継遺贈(のように見える遺言)も,そもそも負担付遺贈の趣旨だとか,期限付遺贈なんだ,などとして,全体として有効と考える余地もあるわけです。

このような見地から,上記の最高裁判決は,当該遺言は,先に述べた①や②のような解釈の余地もあるとして,高等裁判所に,判断のやり直しを命じました。


というわけで,後継遺贈だの何だのという前に,まずは遺言の解釈が大切ですね。
遺言者の生前の言動やその他さまざまな事情から,遺言者の真意はなんだったのか,ということを解釈していくことになります。
このような作業は,確定的なルールがあるわけではないので難しいですが,解釈の醍醐味みたいなものも感じますね。

 

遺言の解釈をした上でなお後継遺贈であるとされた場合,まさに後継遺贈の有効性が問題になり,遺言のどの部分をどの範囲で無効とするか,という極めて困難な問題がでてきますね…。

【相続】誰だ?誰だ?葬儀費用を支払うのは誰だ?

誰かが亡くなった場合,葬儀が出されるのが通常です。

葬儀の規模やその内容は千差万別ですし,香典もありますので一概には言えないのですが,だいたい葬儀の場合は支出のほうが収入より大きく,収支としては赤字になることが通常だと思われます(他方,「結婚式はプラス」というような話も聞いたことがあるのですが,到底信じられません。本当ですかね?)


 

では,この葬儀費用については,法的には誰の負担となるのでしょうか。

 

実は,この点については,明文の規定はなく,解釈上も①喪主負担説②相続人負担説③相続財産負担説④条理説,といったいくつかの見解が主張されていまして,実務上定説をみない状況とされています。
 

 

最近の裁判例では,①の喪主負担説を採用したものがあります。

 

「葬儀費用とは,死者の追悼儀式に要する費用及び埋葬等の行為に要する費用(死体の検案に要する費用,死亡届に要する費用,死体の運搬 に要する費用及び火葬に要する費用等)と解されるが,亡くなった者が予め自らの葬儀に関する契約を締結するなどしておらず,かつ,亡くなった者の相続人や関係者の間で葬儀費用の負担についての合意がない場合においては, 追悼儀式に要する費用については同儀式を主宰した者,すなわち,自己の責任と計算において,同儀式を準備し,手配等して挙行した者が負担し,埋葬等の行為に要する費用については亡くなった者の祭祀承継者が負担するものと解するのが相当である。

なぜならば,亡くなった者が予め自らの葬儀に関する契約を締結するなどしておらず,かつ,亡くなった者の相続人や関係者の間で葬儀費用の負担についての合意がない場合においては,追悼儀式を行うか否か,同儀式を行うにしても,同儀式の規模をどの程度にし,どれだけの費用をかけるかについては,もっぱら同儀式の主宰者がその責任において決定し,実施するものであるから,同儀式を主宰する者が同費用を負担するのが相当であり,他方,遺骸又は遺骨の所有権は,民法897条に従って慣習上,死者の祭祀を主宰すべき者に帰属するものと解される(最高裁平成元年7月18日第三小法廷判決・家裁月報41巻10号128頁参照)ので,その管理,処分に要する費用も祭祀を主宰すべき者が負担すべきものと解するのが相当であるからである。」(名古屋高判平成24年3月29日最高裁HP)。

 

 

私なりに乱暴にまとめてしまうと,口を出すなら金も出す,という感じでしょうかね。
葬儀の内容や規模を決めるのは,喪主(葬儀主宰者)なのですから,自分で決めたのであれば,最終的に経済的な負担をすべきだ,ということですね。
確かに,内容の決定に関与できない又はしていない喪主以外の相続人の立場からすれば,自分が決めたわけでもないのに費用だけ負担させられるというのはおかしな感じがしますよね。

 

葬儀というのはもともと慣習によるものですし,それぞれの価値観を否定する訳ではないのですが,ごくまれに「亡くなった方の預金から当然出せるでしょ」というような意識の方もいます。こういう人は,銀行口座が凍結されていると銀行に対して立腹してたりします。
ここまでいくと,亡くなった人を送り出すのは残された親族等の責任だとは思わんのかい?と言いたくなってしまいます。

【相続】えっ・・・亡くなった叔母が・・・ドイツで遺言を書いていた!?しかも何故かドルトムントで・・・?

最近は国際的な面の絡む相続も増えています。日本に長年居住している外国人が日本で遺言を作成していた,ということも珍しくありません。

そこで今回は,国際遺言(こんな用語はないと思いますがうまい言葉が思い浮かばないので…)について整理してみたいと思います。

 

1 遺言の成立について

遺言の成立・効力については,法の適用に関する通則法37条1項で「遺言の成立及び効力は,その成立の当時における遺言者の本国法による。」とされています。

ここでいう遺言の成立及び効力とは,遺言という意思表示そのものに関する問題をいうとされております。成立のところでは,遺言能力とか,遺言の意思表示の瑕疵(強迫等)の問題,また効力のところでは遺言の効力発生時期の問題などがこれに該当します。

なお,遺言の取り消しについては,取消時における遺言者の本国法とされています(法の適用に関する通則法37条2項)。

 

2 遺言の方式について

ところで,日本では,遺言が有効と認められるためには,自筆証書遺言や公正証書遺言などといった遺言の種類によって,細かい方式が法律で定められています。

遺言の方式に関しては,法の適用に関する通則法ではなく,遺言の方式の準拠法に関する法律という法律で規定がされています。この法律は「遺言の方式に関する法律の抵触に関する条約」を日本が批准し,国内の法律としたものです。

この法律は,基本的には「遺言優遇の原則」という考え方に立脚しており,

①行為地の法

②遺言者が遺言の成立または死亡の当時国籍を有した国の法

③遺言者が遺言の成立または死亡の当時住所を有した地の法

④遺言者が遺言の成立または死亡の当時常居所を有した地の法

⑤不動産に関する遺言については不動産の所在地の法

のいずれかひとつの法律に遺言の方式が適合するときは,当該遺言は(方式の点に関しては)原則として遺言になるとされています(遺言の方式の準拠法に関する法律2条)。

意思表示自体の問題ではなく方式のミスなんだからできるかぎり救済して有効にしよう,という考え方が採られているわけですね。

 

そういうわけで,当該遺言が,遺言者や当該遺言に関係しそうな国のどれかの法律において有効な方式に従っていれば,基本的には有効ということになります。

例えば,ビデオ録画による遺言は,日本では認められていませんけれども,遺言者の本国法では認められるということであれば,当該遺言は有効となります。

 

なお,外国法を適用される場合であっても,その外国法の適用が日本の公の秩序に反する場合にはその外国法は適用されません(遺言の方式の準拠法に関する法律8条)。方式が緩やか過ぎて遺言の成立の真正が担保できないような場合がこれに該当するとされています。

 

3 まとめ

国際遺言は今後増加すると思いますが,基本的には,行為地の法律に従って遺言を作成すれば問題ないわけですので,あまり気にすることはないかもしれないですね。

むしろ,日本法では方式のミスがあったけれども遺言者が外国人であったので他の国の法律で救済できた…ということも場合によってはあり得るかもしれません。

【相続】亡くなった方の預貯金の履歴は調べられるの??

相続関係の相談の中で,よくあるのが「生前,亡くなった親の預金を他の兄弟が管理していて引き出していた」という話がでてきます。

このいわゆる使途不明金の問題については以前も記事を書きました。

 

このような話の場合,まずどの口座からどのように引き出しがなされているのか,調査しなければなりませんよね。

しかし,この点についてお尋ねすると,既に通帳の履歴を取り寄せているような方もいれば,そもそも「口座がどこにあるか分からない」とか「通帳の口座なんて調べられるのですか」と仰る方など,対応が分かれます(余談ですが,弁護士側からすると,ここらへんで,その相談者の方のやる気の度合いが何となく分かります。)。

 

さて,この点について,現在は,判例によって,被相続人名義の預貯金口座の取引経過開示請求権は各共同相続人が単独で行使することができるとされており(最一小判平成21年1月22日民集63巻1号228頁),相続人であれば,預貯金の履歴を取得することができます。

また,これは既に口座が解約されていたとしても同様です。

 

現在のところ,各金融機関は,本判決に従って,共同相続人の1名が請求した場合,取引経過を開示してくれます(保存している期間の取引履歴を印刷して出してくれます)。また,多くの金融機関は,口座番号や支店が分からなくても,ある程度横断的に調べてもらえると思います。

 

弁護士も相続人の代理人として調べることができますので,遺産分割事件を依頼された場合には,われわれが調査することも多いです。

もっとも,金融機関によっては,実印での押印のある委任状や印鑑証明等の書類を要求されることも多く,ご本人にやってもらったほうが時間的にも費用的にも負担が少ないという場合もあります。このような場合は,依頼者の方に集めていただくこともあり得ます。

 

こういった相続財産の調査についても承っておりますので,お気軽にご相談ください。

【相続】寄与分が駄目なら扶養料の請求だ!?

遺産分割調停において,被相続人の生活費を援助していたとして寄与分の主張がなされることがあります。しかし,寄与分の主張は,被相続人の遺産の形成維持に対する因果関係などが必要とされており,認められないことも多いです。

残念ながら寄与分が認められなかった場合に,「被相続人の扶養を(みんなに代わって)した」として,他の親族に対し,扶養料の求償をすることが許されるでしょうか。

何となく無理筋な印象を受けてしまいますが,この点が問題となった事案(大阪高等裁判所平成15年5月22日決定)で,大阪高裁は、寄与分成立の要件と扶養料求償の要件とは異なるとして、寄与分が認められない場合でも、扶養料の求償が認められる余地があるものとしました。この裁判例からすると,法的には,こういう二段構えの請求(遺産分割時に寄与分が認められなかったが,扶養料の求償をする)ということも可能と思われます。

ただ,当然のことながら,扶養料を求償するには,そのための一定の要件を満たさなければなりません。事案によっては,こちらのほうが寄与分の要件より厳しい(成立しにくい)ということもあり得ますので,寄与分が認められなければ求償すればよい,というような短絡的な判断は禁物でしょうね。

【親子関係】認知の訴えでは原告は何を証明したらよいのか?

(事案)

私(女性)は,妻子のある男性と恋に落ち,肉体関係を持ちました。ほどなくして子どもを授かり,出産したのですが,相手の男性は態度を豹変させ「俺の子ではない」「認知もしない」等と言いだしました。でも明らかに彼の子どもです。結婚はできないとしても,子どもに対する責任はきちんと取ってもらいたいのですが,どのようにすればよいでしょうか。

 

嫡出推定が働かない子どもですので,子どもから,父に対し,認知を求めることができます。父が任意に認知してくれない場合には,認知の訴えを提起することができます(民法787条)が,まずは調停を申し立てることが必要です。この事案では子どもは未成年でしょうから,実際には,母が子どもの法定代理人として申立てや提訴をすることになりますね。

では,実際に,認知の訴えを提起した場合,原告側はなにを証明すれば勝訴(=認知が認められる)となるのでしょうか。

 

この点について,最高裁の判例によれば,①母が子ども(原告)を懐胎した時期に被告と性的関係があり,②母について被告以外の男性との性的関係が認められず③血液型検査の結果によっても,血液型上の背馳がない(血液型検査結果の上でも矛盾がない)場合には,父子関係が証明されたとしてよいとされています(最判昭和32年6月21日民集11巻6号1125頁)。

このうち,②に関しては,被告側で立証しなければならないとされています。つまり,被告側として父子関係を争うのであれば,「母親が,子どもを懐胎した時期に,(被告以外の)他の男とセックスしていた!」ということを立証しなければならないということです。

 

もっとも,現在ではDNA鑑定がありますので,生物学的な父子関係は極めて容易に証明できるようになっています。ですので,上記の「オマエ他の男と遊びまくってたじゃねぇか」という反論が意味を有する場面は少なくなっていると思われます。
 

他方,DNA鑑定が極めて重要になっていますので,これを被告側が拒否して検査ができない場合にどう考えるのか,というのが問題になります(DNA鑑定は,対象者の協力がなければ実施不可能です。)。

この点についてはまだ議論が煮詰まっていないようですが,「鑑定協力拒否を理由に一定の事実を擬制することは人事訴訟になじまない」という説が有力です。
基本的には立法によることが相当と考えられています。

というわけで,現在の実務を前提にすると,DNA鑑定が実施できない場合,原告側としては,最高裁の示した要件を主張・立証していくことになりますね。

【親子関係】親族の扶養義務ってなに?

現代の高齢化社会で,「親の面倒をみる」ということは珍しくありません。

ただ,この「面倒をみる」という点,人によってかなり感覚が異なるように思われます。「老親の面倒を見るのは当たり前だ,それをしなかった兄弟は相続分を減らされるべきだ…」という主張は遺産分割では珍しくありませんけれども,他方で,「両親が離婚して母親に引き取られた,母も亡くなったあと,父親が突然現れて金を無心された」というような事例もあります。

今回は,親族の扶養義務について書きたいと思います。

まず,民法上,直系血族及び兄弟姉妹は互いに扶養をする義務があるとされています(民法877条1項)。
また,三親等内の親族についても,家庭裁判所によて扶養義務を負わせられることがあり得ます。

1 扶養の方法
金銭での扶養が原則とされています。要するに,お金を毎月いくら支払え,というようなかたちになるわけですね。

2 扶養の程度
次に,扶養の程度(=いくら支払えばいいのか)については,実務上,①生活保持義務と②生活扶助義務の2つに区別されて考えられています(条文に書いてあるわけではないので解釈によるものです)。
①の生活保持義務は,権利者に義務者の生活程度に等しい生活を保持させるという義務です。夫婦間の義務や親の未成熟子に対する義務がこれにあたります。
②の生活扶助義務は,権利者の生活を維持するために義務者の地位相応な生活を犠牲にすることなく扶助すればよいというものです。余裕のある範囲でやればよい…というのがイメージに近いかもしれません。
直系血族間の扶養義務(ただし未成熟子に対する親の義務は前述のとおり①になります),兄弟姉妹間の扶養義務,などがこれにあたります。

3 算定方法
生活保持義務については,婚姻費用または養育費の算定方法と同一とされています。

難しいのは生活扶助義務です。これについては,
A 扶養権利者の不足額:最低生活費−権利者の収入
B 扶養義務者の余力額:扶養義務者の収入−扶養義務者がその社会的地位にふさわしい生活をするための費用
のうち,いずれか低いほうの金額,とされています。
最低生活費は生活保護基準に基づいて算定されるということになるでしょう(*こういう感じで,家事事件でも生活保護に関する知識が役立つことも多いのです)。
また,Bの「扶養義務者がその社会的地位にふさわしい生活をするための費用」についてはなかなか理解が難しいです。収入の高い人は高い社会的地位についていることが多く,当然,住居費や交際費や子の学費なども一般的な収入の方より嵩んでいることが多いので,それを削ってまで扶養する必要はないとされています。
ここらへんは一応の基準はあるのですが,予測することはなかなか困難ですね。

4 手続
扶養料に関する紛争が合意でまとまるということは考えにくいです。
基本的には,家庭裁判所の調停を申し立てるケースが多いでしょう。

 

【親子関係】親権者の変更

離婚の際,未成年者についてはいずれかの親が親権者となることになります。
この親権者については変更されることがあります。


例えば,離婚後,病気等の理由によって親権者が子を監護できなくなり,両親の話し合いで,親権者をもう一方の親に変更するというような「円満な」親権者変更もあります。
もっとも,話し合いだけで親権者を自由に変更できるわけではありません。親権者の変更はその子(未成年者)に大きな影響がありますから,たとえ当事者間で親権者変更の合意ができていたとしても,家庭裁判所に調停または審判を申し立てなければなりません。
 

当事者間で協議がまとまらない場合には,もちろん,調停または審判を申し立てることになります。
子どもを保護する緊急の必要性がある場合(条文上は「強制執行を保全し,又は子その他の利害関係人の急迫の危険を防止するため必要があるとき」)には,審判前の保全処分として,仮の監護者指定とか,仮の子の引渡し等を求めることができます。また,親権者の職務の執行を一時的に停止し,職務代行者を選任するという保全処分も申し立てることができます。

 

最近,離婚の際の親権者争いや子の引き渡しの事件が増加している(ような気がする)のですが,この親権者の変更についても,絶対数は少ないかもしれませんが,以前より増加してきているのではないでしょうか。

ただ,親権の問題は「子どもの福祉」ということで,子どもの利益が最優先されます。

特に親権者変更というのはいったん決まった親権者(=子の状況)をわざわざ変えようとするわけですから,そのハードルは基本的に高いです。現親権者の監護養育状況にどのような問題があるのか,というような視点から審理が進められ,相当の事情がないと変更は難しいでしょう。

 

でもこれだと,結局,離婚のときの状況で親権者を決めたらあとはほぼ変更なし,ということに事実上なってしまうわけで,それもどうかなあという気もしています。離婚後の状況の変化というものはありますし,だいたい,子ども,特に中学生以上とかある程度の年齢になった子については,いろいろな状況下で暮らすというのは必ずしも悪いことでもないような気もします。家裁の基本として「現在の状況維持,環境を変えない」というスタンスがあるように感じますが,それが本当に子どものためなのか?転勤族の子が劣っているという実証結果でもあるのか?というような疑問も浮かびます。そもそも,根本的に,裁判所が子の福祉,利益というものを本当に考えられるのか…

未成年後見をもっと活用できるのではないかという気もします。

子育てカウンセラーみたいな位置づけにすることもやろうと思えばできるかもしれないし。

 

1人でこういうことをつらつら考えても空しいばかりですが,こういう風にして秋の夜は更けていきます。

 

【親子関係】実母と養父が子の親権者を養父と定めて離婚した後、養父と養子が離縁する場合の代諾権者

 

最近,養子縁組に関して調査していましたら,マイナー論点についての,法務省見解(東京法務局長の照会に対する法務省の回答)を見つけましたので,紹介します。
 

事例としては,「実母と養父が子の親権者を養父と定めて離婚した後,養父と養子が離縁をする場合には,実母が当然に離縁協議者となるものではないとした事例」とのことです。

これだけだと何のことかよくわからないですが,この回答が掲載された,全国連合戸籍住民基本台帳事務協議会編集『戸籍』第847号には,問題状況が分かりやすく整理されています。

 

(事案)

1 実父Aと実母Bの間に子Cが産まれたが,AとBが離婚。離婚の際,Cの親権者はBとなった。

2 その後,BはDと再婚。CとDは養子縁組し,Cは養父Dの養子となった。ところが,後日,BとDは離婚。離婚の際,Cの親権者はDとなった。

3 今般,事情により,DはCと離縁することにした(※なお現時点でCは15歳未満であるとする)。

 

まず,15歳未満の養子が離縁するときは,養親と離縁後に法定代理人となるべき者との間で協議をする必要があります(民法811条2項)。そこで,本事例の場合,誰が「離縁後に法定代理人となるべき者」となるか,簡単にいえば養父Dとしては誰を実際の相手方として協議または調停等を進めていけばよいのか,というのがここでの問題です。

 

この点につき,「離縁により養子縁組が解消された場合には,実親の親権が当然に復活する」という養子縁組制度の基本的立場に基づいて,縁組前に養子の親権者であった実親が離縁協議者となるとの考え方があります(昭和37年の民法811条2項が改正される前のものですが,そのような回答をしている戸籍先例があるとのことです。)。学説でもこの説が多いようです。

他方で,未成年後見人となるべき者が離縁協議者となるとの説もあります。

 

本事例の回答からすると,法務省は,後者の説をとっているようです。

法務省の回答は本当に回答だけで,その根拠は明記されていませんが,おそらく,養親であっても実親であっても親権者としては同様の立場であると考えられていることから,このような見解が導き出されたのではないかと思われます。

つまり,実親と養親が婚姻した場合には,養子は両者の共同親権に服すると考えられています。そして,実親と養親が離婚する際には,実親夫婦が離婚するのと同様に親権者をいずれかに決定するとされています。現実には,実親が実子の親権者となることがほとんどでしょうが,これは別に法律上決められているものではなく,実親ではなく養親が親権者となっても法律上問題はないわけです。

このように,離婚の際の親権者決定について,養親と実親の間に全く差がない(=実親同士の場合と同様に考える)と扱われていることからすると,その後の法的取扱いについても,実親同士の離婚の場合と同じように考えるべきだということになります。

では,実親同士が子の親権者を一方親と定めて離婚した後に,親権者となった者が親権を行使することができなくなった場合にはどうなるのか,ということですが,この場合,他方の実親が当然に親権者となるとは考えられていません。親権者の変更をするか,変更されない場合には未成年後見が開始するとされています。

以上のことから,法務省は,未成年後見人となるべき者が離縁協議者となるという見解を採用していると思われます。

【親子関係】国際離婚と親権

離婚に際して,親権や監護権が大きな争点となることは,(特に最近では)珍しくありませんが,外国籍の人が関係する離婚において,子どもの親権が問題となるような場合は,どのように処理されるのでしょうか?「親権」と言っても日本では認められていますが,他の国でどのように規定されているかはなかなか分かりません。日本法に基づいて考えてもよいのでしょうか?

 

(事例)

A国籍の夫とB国籍の妻は,5年前に結婚し,現在4歳になる長男がいる。長男の国籍はA国である。家族は現在,日本で婚姻生活を送っているのであるが,夫婦は離婚しようとしている。夫婦間で長男の親権について争いがあるので,妻は,日本の裁判所に調停申立て・訴訟提起しようとしている。

*A及びBはいずれも日本ではない

 

このような事例の場合,日本で裁判手続を進められるとしても,親権者の決定などの判断について適用される法律は,日本の法律ではありません。

法の適用に関する通則法32条によると「親子間の法律関係は,子の本国法が父又は母の本国法…と同一である場合には,子の本国法により,その他の場合には子の住居所地法による。」と定められています。

そうすると,今回の場合,A国法が適用されることになります。

A国の家族法がどうなっているのか分かりませんが,子の福祉に配慮したものであるといいですね。

 

ちなみに,この事例の場合,離婚そのものについては日本法が適用される可能性が高いと思われます(法の適用に関する通則法27条,同25条)。

離婚と親権で適用される法律が異なることになりますが,法律関係としては別なのでこのような結論になっています。

 

【遺言】遺言の検認手続はどこでやるか

公正証書遺言以外の遺言が残されていた場合,遺言の検認という手続が必要になります。
検認とは,相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせるとともに,遺言書の形状,加除訂正の状態,日付,署名など検認の日現在における遺言書の内容を明確にして遺言書の偽造・変造を防止するための手続とされています。

いろいろなところで書いてあると思いますが,遺言が有効か無効かを判断する手続ではありませんので,ご注意ください。
(検認したからといって無効な遺言が有効になるわけではありません。)。

手続としては,遺言書の保管者またはこれを発見した相続人は,遺言者の死亡を知った後,遅滞なく遺言書を家庭裁判所に提出して,その「検認」を請求しなければならないとされています。また,封印のある遺言書は,家庭裁判所で相続人等の立会いの上開封しなければならず,勝手に開封してはいけません。
実際の検認手続は,(封がされていれば)遺言書を開封したり,長さをはかったり,署名を確認したり…といった感じで進みます。私の経験だとセレモニー的な要素が強く,そんなに揉めることはないですね(揉めるのは検認の後です)。

と,検認手続自体はそれほど時間がかかるものではないのですが,実務上「場所」が問題というか負担になることがあります。
実は,検認を管轄する家庭裁判所は,亡くなった方の最後の住所地を管轄している裁判所なんですね。
ということで,田舎で年老いた親が亡くなったというような場合,その田舎の家庭裁判所に申し立てて検認をしてもらわなければなりません。
遺産分割調停だと相手方の誰かが居住しているところの家庭裁判所に申し立てることができるので,結構,選択肢が広いことが多いのですが,検認は選択の余地がありません。

わずかな時間のために,交通費と時間をかけて出席する…というのは結構しんどいですよね。
遺言の保管場所(保管者の住所地とか)にも管轄を認めるとか,少し拡大されてもいいような気がします。

 

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